
前回は、みんなが手を拱(こまね)いてしまうような問題に取り組める仕掛け屋とはどんな人か見てきました。その後編です。
・新しい視点や切り口が生まれる
仕掛け屋はプロジェクトがまたがる分野について、なんでもやってみます。いろんな分野をつまみ食いするということは、それぞれの分野で素人ですから、その分野のエキスパートとは少し違った視点を持つことがあります。そのことが新たな気づきをもたらすことがあるのです。
大学生の頃、インターンで工場実習を受けたことがあります。小さな半導体素子に端子を付ける時(ワイヤボンディング)に素子が割れてしまうという不良が多発していて、その問題に取り組みました。端子は素子の真ん中に付けるのですが、真ん中から外れると割れやすいと考えられ、端子をつける位置の精度をあげることが対策の一つとされ、努力されていました。ただ本当に中央を外れると割れやすいのか疑問に思ったので、提案して1000個ほど調べてみました。皆さん不良が多発しているせいで忙しくとてもそんな暇な作業はできなかった中、私はひたすら顕微鏡でサンプルを調べました。結果は端子の位置と不良率は関係ありませんでした。時間のある学生のおかげでちょっとは役に立てたかと嬉しかったのを覚えています。
こんな風に分野のエキスパート以外が混じれば、自然に新しい視点や切り口が生まれます。
・一辺にもぐらを押える
みんなが手を拱く問題というのはモグラ叩きの性質を持っています。こっちの問題を解決しようとするとあっちに問題が出る。それが複数の領域にまたがっているので、一人の専門家の手に追えません。エキスパート同士で連携して一度に全てのモグラを叩ければいいのですが、それはなかなか大変です。
そんな時に仕掛け屋さんは独特の動きをします。右手でこっちのモグラの鼻だけ出して押さえつけておいて、左手であっちのモグラの鼻だけ出して押さえつけ、右足でそっちの・・・とやりながら一辺に全部のもぐらを押えこむのです。自分の四肢が足りなければ、他のメンバーにそこ少しだけ押えてと頼むでしょう。ツイスターゲームのような状況です。そうやって全てのモグラが飛び出てない状況を作り、それぞれのエキスパートにそれぞれのもぐらの鼻だけ出して押えるのを変わってもらいます。そして問題全体の解決法を編み出します。一度できると分かれば、後はチームプレイが大いに効き、ついにはすべての穴に蓋ができることでしょう。この独特の動きが特徴的です。
・杭を打ち込みバンジージャンプする
みんなが手を拱く問題というのは今までの方法の手直しではできません。したがって「え」と尻込みしかけないアイデアに飛び込まなければなりません。どんなに緻密に調べていけそうだと思っても、最後は勇気を出してジャンプをするしかありません。そんなとき、仕掛け屋さんはできる限りでっかい杭を打ちます。ここが譲らないところだと。それに紐つけてジャンプします。
アメリカのオンラインショップ「ザッポス」が好例でしょう。顧客に満足してもらう。それを原点に、何度でも返品できる形で靴をオンラインで売ることに成功しました。尋常ではありません。何度でも返品できる靴とかうまく行くとはまったく思えません。でも仕掛け屋さんはでっかい杭が打てればひょいと飛べるのです。
・杭を打たなければジャンプしない
それは逆に杭がなければジャンプしません。なんらかの勝算がなければ飛びません。そんなのただの自殺です。それがさっきのモグラ押さえの能力です。一応全ての分野齧っておいて、とりあえず全部押さえられそうだと腹づもりがあるのです。そういう目処が立たないうちは、人が集まって「これなんとかしなきゃ」と言っていても、「そうですね」と皆と一緒に手を拱いてやり過ごします。
・逃げるのがうまい
杭打ってジャンプしたけど、やっぱりだめっぽいときは、さっさと止めるのも上手です。止め方も無難にまとめるなど上手だったりします。
・何かに秀でているわけではない
ここまで読んでいると、なんか仕掛け屋ってスーパーマンじゃね?と思えてくるかもしれませんが、実はぱっとしなかったりします。なにか問題を解決しても、方法がわかればなーんだみたいなことも多く、それこそ「それ自分も考えてたよ」と思う人続出でしょう。いろんなことを齧る一方とことんつきつめないので、その人の何が凄いか見えにくいです。本当はここはってとこは突き詰めてるんですが、他に誰もエキスパートがいないようなあまりにニッチな場所で分かってもらえないということもあります。
以上二回にわけて仕掛け屋の特徴書き出してみました。あまり周りにこういうタイプの人材はいないのではないでしょうか。一方こういう人がいれば、みんなが手を拱くような問題にも挑戦できそうな気はしませんか?
でもどうしてこういう人材が不足するのか。次に考えてみたいと思います。
(明日はちょっと脱線する予定です)
目次
時代が【急募】仕掛け屋(その1)
(その2)〜誰もが手を拱(こまね)く問題とは〜
(その3)〜仕掛け屋とはどんな人か(前編)〜
(その4)〜仕掛け屋とはどんな人か(後編)〜
(その5)〜なぜ今までいなかったのか。いつまで必要なのか〜
(その6)〜仕掛け屋を目指すのに重要な2点〜
(その7)〜大学院生よ仕掛け屋を目指せ〜
タグ:イノベーションの源泉